「気持ちよくて、寝てしまいました。すみません」。施術のあと、そうおっしゃる方が本当に多くいらっしゃいます。謝られることではないので、そのたびに「それがいちばんです」とお答えしています。
ただ、不思議ではあります。静かで暗い部屋だから、疲れているから。そう説明されることが多いのですが、それだけなら家のソファでも同じはずです。人の手で触れられているときにかぎって、なぜあんなに強い眠気がくるのか。
速く強くより、ゆっくりのほうが心地よい
肩をもまれるとき、力いっぱい速く動かされるより、ゆっくり手のひらが動いていくほうが、体の力が抜けていく感じがしないでしょうか。子どものころ、お腹が痛いときに背中をさすってもらった手も、決して速くはありませんでした。ゆっくり、同じところを、何度も。
- 強くもまれると、その場はよくても、あとで疲れが出る
- 軽くゆっくりさわられているほうが、眠くなる
- 髪をとかしてもらうだけで、まぶたが重くなる
皮膚には、「ゆっくり」によく反応する神経がある
人の皮膚には、ゆっくりとした優しい触れ方によく反応する神経の線維があると報告されています。C触覚線維(CT線維)と呼ばれるものです。
おもしろいのは、その反応の仕方です。速くこすっても、強く押しても、あまり反応しません。いちばんよく反応するのは、毎秒一〜十センチほどのゆっくりした動きで、その速さで触れられたときに、人は「いちばん心地よい」と答えた——そう報告した研究があります(Löken ほか、Nature Neuroscience、2009年)。
さらにこの線維は温度にも好みがあり、人肌に近い温度で触れられたときによく反応するという報告もあります(Ackerley ほか、The Journal of Neuroscience、2014年)。痛みや圧の強さを伝える感覚とは別に、「触れられていることの心地よさ」を運ぶ道筋が、皮膚にはあるらしい、ということです。
東洋医学が「手当て」と呼んできたもの
手をあてることに「手当て」という名前がついているのは、日本語のおもしろいところです。理屈が先にあったわけではなく、心地よかったから言葉として残った。
東洋医学では、緊張がほどけないまま日が過ぎると「気(き)」の流れが滞りやすいとされ、頭やこめかみ、首すじが張りやすくなると考えられています。そこへ、ゆっくり手をあてる。昔からの養生です。
家でできる、三つの触れ方
一、速さを、半分に落とす
ご家族の肩や背中にふれるとき、いつもの半分の速さを意識してみてください。手のひら全体で、同じところをゆっくり。強さより、動かす速さのほうがずっと大事です。
二、手を温めてから
冷たい手でふれると、体は縮こまります。両手をこすり合わせるか、お湯で温めてから。自分の頭にふれるときも同じです。
三、髪の生えぎわを、指の腹で
前髪の生えぎわから頭のてっぺんへ、指の腹でゆっくり。爪を立てず、頭皮ごと動かすつもりで。お風呂上がりの一、二分で十分です。
※東洋医学の考え方と、一般に報告されている研究をもとにした情報のご紹介です。医療的な診断・治療や、効果を保証するものではありません。眠れない状態が続く場合は、医療機関にご相談ください。
自分の手では、届かないところ
ただ、自分でやると、どうしても速くなっていきます。手が疲れるからです。それに、自分の手の動きは自分に読めてしまう。人にゆだねたときの眠気とは、少し違います。
香の雫では、脚、首、肩と下からたどってから、頭皮、後頭部、側頭部、耳のまわりへ進みます。さらっとした質感の漢方アロマオイルを頭皮になじませながら、ゆっくり手を動かしていきます。髪は洗いませんので、施術のあとはそのままお出かけいただけます。
照明を落とした完全個室で、会話は最小限に。眠ってしまってかまいません。というより、眠っていただくのがいちばんです。